■COEテーマ講義「心とことば」(6)開一夫さん
月曜日はCOEテーマ講義の第6回,
東京大学 総合文化研究科 広域科学専攻の,開一夫さんのお話でした。
前回の榊原さんと同じく赤ちゃんについての話題がメイントピックだったのですが,
榊原さんが「言語の発達」という切り口でお話してくれたのに対し,
今回の開さんは「自己認識の発達過程」という切り口で講義をしてくれました。
以下,内容報告です。
開さんはもともとは「機械学習」(ロボットを賢くする)という工学的な研究をされていたそうで,
それが4年前,駒場に移ってきた際に,専門を赤ちゃんの研究に変えたそうです。
専門は一応「Developmental Cognitive Neuroscience」─「発達認知神経科学」という言葉を掲げているそうで,
現在は「赤ちゃんと人工物とのインタラクション」をメインに研究されているそうです。
講義では,そのことについてのおもしろい実験について話してくださいました。
●遅延自己映像実験
どんな実験かというと,「遅延自己映像実験」というものです。
テレビ画面に2秒とか,ある一定時間のタイムラグをとって自分の画像が映し出されるような装置を使って実験を行います。
つまり被験者は2秒前の過去の自分を見ることになるわけです。
この装置を使って,たとえば,乳幼児に対して「ステッカーテスト」を行います。
「ステッカーテスト」とは,
まず被験者の子供さんの額に,こっそりステッカーを貼ります。
そしてその子供さんは,それを遅延映像装置を通して見ます。
果たして子供さんは,それが自分に貼られたものだと気付き,ステッカーをとることができるか,ということを見るのです。
例として「よっちくん」という被験者さんの反応のビデオを見せてくれたのですが,
これがなかなかおもしろかった。
最初,映像を見て,「あ,ステッカーが貼られてる」と気付きます。
そして自分の額を探ります。
しかし,よっちくんはステッカーをうまく見つけられませんでした。
そうするとよっちくんは映像を見ながら「あれぇ,お友達かなぁ」などとつぶやきはじめるのです。
最初は「この映像は自分だ」という認識があったのに,
それが揺らぐのです。
このようにして数人(数十人だったかな?)に実験をし,
コントロール実験として「タイムラグのない,ライブ映像を映してステッカーテストをする」という実験をしたところ,
4歳児ではタイムラグの有無に関わらず,高い割合でステッカーを剥がすことができたのに対して,
3歳児では有意に差が認められた(タイムラグのある方は,ステッカーを剥がせる成功率が有意に低かった),
という実験結果が得られたそうです。
同じような実験は赤ちゃんでも行ったそうです。
(赤ちゃんではステッカーテストはできないので,代わりに「選択注視法」というのを使ったそうです)
「ほぉ〜」と思いました。おもしろい実験を考えるなぁ,と。
でもよくよく考えて,「これがなんの理解につながるのかな?」と思っていたら,
開さんはちゃんとそのことを説明してくれました。
●赤ちゃん研究の意義
赤ちゃん研究をする意義として,開さんは次の3つを挙げてくれました。
(1)認知機能の「根源的メカニズム」の研究
:プリミティブな赤ちゃんの脳を研究することで,それがわかるかもしれない
(2)脳機能が作られていく「発達過程」の解明
:赤ちゃんの脳は誕生後2歳まで,形態学的にも劇的に変化する。
こうした構造の変化は,機能の発達とどう結びついているか。
(3)人工知能・ロボティクスからの期待
:「学習する機械」「適応する機械」は作れるか?
う〜ん,なるほど。
確かにこれらがわかったら,おもしろいです。
人間の本質的な理解につながる気がします。
「赤ちゃんというのは,確かに魅力的な研究対象なんだなぁ」,
そんなことを今回の講義で思いました。
【参考ホームページ】
・
東京大学 開研究室
以前紹介した岡ノ谷一夫さんのホームページもしっかりしていましたが,
開さんの研究室のページもなかなか見やすく,内容も充実していてgoodです。
今回,ぼくの筆力ではうまく説明しきれなかった実験の詳細も載っていますので,
興味のある方はそちらを参照してください。
赤ちゃん・小学生の被験者の募集も行っているようです。
・
東京大学研究者データベース:開一夫
【他の回の記事はこちらから↓】
http://blog.livedoor.jp/gandhi/archives/cat_48505.html