■COEテーマ講義「心とことば」(5)榊原洋一さん
月曜日はCOEテーマ講義の第5回,
東大病院小児科,小児神経が専門の,榊原洋一さんのお話でした。
専門的なトピックをわかりやすく話してくれて,とても興味深いお話でした。
以下,内容報告です。
今回はきちんと話をまとめる気力がないので,
話を聞きながら取ったメモをほぼそのまま掲載します(ちょっと怠慢)。
●乳児の脳は白紙ではない
・世界の理解…物の性質(形,色,表面,重さ)の理解,因果関係の理解(=物の運動の予想)
・人の理解…物より人により興味を示す,他人の行動を注視
・自分自身の理解…ハンド・リガード(自分で自分の手を見る),クーイング(原始的発生),手・口・目の共同
・言語の理解…「言語器官としての脳」「ユニバーサルグラマー」byチョムスキー
従来の考え→子供の脳は「タブラ・ラサ」=白紙
現在の考え→子供の脳はけして白紙ではない
〈白紙ではない〉仮説を支持する証拠
:ピジン英語の存在,世界中の言語構造は基本的には同じ,言語遺伝子の存在※1,ウィリアム症候群※2
※1:ある文法だけが理解できない,といった家系が存在する。
原因遺伝子はFoxp2という遺伝子であることがわかっている。
※2:妖精様顔貌,精神遅滞,高カルシウム血症,先天性心奇形,豊富な語彙
「精神遅滞」なのに「豊富な語彙」。
●子どもの言葉の発達順序
聞いている時期→クーイング→バブリング→ジャーゴン→有意語→単語の組み合わせ→文法
・自分が初めてなんとしゃべったか,親に訊いてみるとおもしろい
・語彙の増加は指数関数的
●言葉獲得の下地
・語音の選択的聴取(「物音」よりも言葉を聴く)
・発音器官の発達・成熟(チンパンジーではこれがないため発語はムリ)
・相手の意図の理解(表情認知,共同注視,指差し)
●言葉を作り出す脳
・言語野:ウェルニッケ野,ブローカ野
・優位半球がある(多くの人は左脳),これは乳児期から既に決定している
・言語野以外の部分(小脳など)も関与
●言葉の中枢
話し言葉→(1)聴き言葉の中枢(ウェルニッケ野)
文字 →(2)読みの中枢(視覚野)
(3)運動性言語中枢 →発語
(4)書きの中枢 →書字
これら(1)〜(4)と(5)概念中枢,が相互に連絡
●子どもの環境と言葉の発達
・言語環境の及ぼす影響
両親が難聴の子どもの協和音への嗜好性
先天性視覚障害の子どもの言語発達
うつの母親の子どもの言語発達(母親の発語が少ないと,発達に遅れ)
・臨界期の存在
ネグレクト児ジニーの言語発達
移民時期と文法能力(完全なNativeになるには,7歳が限界)
●言語の障害
・話しことばがでない
・聴き言葉の理解ができない
・発音に障害がある
・読み書きの障害
様々な原因が考えられる
・精神遅滞
・難聴
・表出性言語遅滞
・受容性言語遅滞
・自閉症
・吃音
・読字困難(失読症)
・書字障害
●言語遅滞に関する検査
・聴力
・発達スクリーニング
・
・…(書き移し損ねた)
・MRI
・MEG(脳磁図) などなど
【感想】
現在は様々な最新機器(MEGやPET SCAN,functional MRIなど)の開発によって,
脳の働きが実際に“見える”ようになってきているのだということを知る。
それに伴う新しい研究手法の確立,そこから出てくる実験結果などの話を聞いて,頼もしく思った。
こうした新しいパラダイムによって,さまざまな障害の原因が解明され,治療へとつながればいいな,と思う。
【参考ホームページ・書籍】
・
東大病院ホームページ
・
東京大学研究者データベース:榊原洋一
・アマゾンで検索したら榊原さんはたくさん本を書かれているようです。
参考までに2冊紹介。
アスペルガー症候群と学習障害─ここまでわかった子どもの心と脳
集中できない子どもたち─ADHD(注意欠陥・多動性障害)なんでもQ&A
【他の回の記事はこちらから↓】
http://blog.livedoor.jp/gandhi/archives/cat_48505.html