■生命科学の現在・パート6(7)武田伸一さん
「生命科学の現在・パート6」第7回,今回の講師は,国立精神・神経センター研究所,武田伸一さん。
ちょうどいま働き盛りな感じの,強いエネルギーと信念を感じさせる人だった。
雨の中,はるばる小平(東京の郊外)まで行った価値はあったと思う。
以下,内容報告です。
●医師から研究の道へ
武田さんはもともと医学部を卒業されて医師になられて,医師として働かれる中で,デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんと出会い,
「それをなんとか治したい」ということで研究の道に入られ,
フランスのパスツール研究所に留学,5年間の留学生活の後,帰国して現在に至る,という経歴をお持ちで,
質問などの受け答えの際の誠実・明瞭さは,やはり「昔とった杵柄」というのか,医師の時代の経験が生きているのかなぁ,なんてことを感じた。
●デュシェンヌ型筋ジストロフィー
というのは,筋肉の壊れていく病気で,
発病すると歩行障害が出て,11歳以前に歩けなくなり,車イス生活,やがては寝たきりとなり,
最後は呼吸障害で20歳以前に80%以上が死亡する,という難病だそうである。
武田さんはこの病気の治療の研究に取り組んでおられ,遺伝子治療,幹細胞による治療,などいくつかのアプローチを試みられている,とのこと。
今回はそのうちの遺伝子治療にしぼって,お話をしていただいた。
●遺伝子治療
筋ジストロフィーの原因遺伝子は1987年につきとめられていて,
「ジストロフィン」という分子を合成する「DMD」という遺伝子がそれだそうである。
筋ジストロフィーは,この遺伝子になんらかの異常(欠損など)があって起こる,というわけである。
これに対して,武田さんらは遺伝子治療─つまり欠損しているDMD遺伝子を筋肉に注射する,という治療法を研究されている。
ただそれにはいろいろ技術的な問題があって,たとえば遺伝子を注入する際のベクター(AAVというウイルスを使う)にはジストロフィン遺伝子は大き過ぎてうまく積むことができない。
そこでうまく挿入することのできる「マイクロジストロフィン」という分子をデザインする研究。
あるいはAAVベクターを注入するとどうしても免疫反応が出て拒絶されてしまう,という問題に対して,免疫をうまく抑制するような研究。
これらの研究を,武田さんらはマウスとイヌを使って研究されているそうである。
ヒトへの応用は,さすがにまだ先のことになるが,それでもそう遠くない未来に,トライアルが始まる,とのことだった。
(写真はポスター発表用のポスター。筋ジストロフィーのイヌが写っている。少しわかりにくかもしれないが,関節の拘縮,脊椎の変形などが認められる。)
●研究室見学
お話の後は,恒例の研究施設見学。
3つのグループに分かれて引率していただいた。
ぼくのいたグループは,「動物実験施設」という実際にマウスやイヌを飼育している建物へ。
雨の降りしきる中,広い敷地内をみんなでわさわさと移動。途中,大きな水たまりなどに行く手を阻まれたりしながら,やっとこさ建物に到着。
ここは館内撮影禁止であった。
(やはりイヌなどを使っていると動物愛護団体からクレームがつくから,なのだろうか?
でも学会発表はするからバレるはずですよねぇ…どうなんだろう?)
細胞を分離する「セルソーター」という装置や,細胞の切片を切り出す作業の様子,切り出した切片の顕微鏡図,などを見せていただいた。
夜8時を回っていたと思うが,大勢の人が残っておられ,研究にいそしんでおられた。お疲れさまです。
そんなわけで,
以上,今回もたのしかった!!
武田さんはじめ研究所のみなさん,お世話になりました。ありがとうございました。
●おまけ:吉祥寺で夕食
帰りは吉祥寺で降りて,みんな(といっての残ったのは10名くらいだったかな)でラーメンをすすった。
熱々のラーメンは,雨で小寒い日にとてもおいしかった。おしゃべりも楽しかったし。
「おなかいっぱい,満足満足」で帰宅したのだった。来週も楽しみだ〜。
【参考】
・
国立精神・神経センター神経研究所
・
共同通信社MEDICAL NEWS「寿命延び、治療法もう一歩 筋ジストロフィー」
【他の回の記事はこちらから↓】
http://blog.livedoor.jp/gandhi/archives/cat_45939.html