2005年01月17日

「不機嫌なジーン」による,利己的遺伝子説への誤解の蔓延を憂う

■「不機嫌なジーン」による,利己的遺伝子説への誤解の蔓延を憂う
→この記事タイトルは,誤りでした。
訂正記事を書きましたので,そちらをご参照ください。

【訂正記事】「利己的遺伝子説」というものは存在しない

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フジテレビの新しい月9ドラマ「不機嫌なジーン」を見た。

「やっぱりなぁ…」という感じだった。

ストーリーは,まぁありがちな,普通の恋愛ドラマ(だと思われる,初回を見た限りでは)。

ストーリーは,どうでもいいのだ。興味はない。
竹内結子さんがどんな演技をしようが,全く興味はない。
(小林聡美さんはファンなので,少々興味がある(^^;))

そんなことよりも,ぼくが気になるのは,
舞台設定が動物行動学の研究室で,
進化や生物学についての中途半端な知識が物語に織り込まれていることだ。

あんな乱暴な説明で,
また「利己的遺伝子説」についての誤った理解が広まるかと思うと,
ため息が出る…

残念,なのである。
非常に無念だ。
こんなひとけのないブログでこんなことを書いても,
ほとんど誰も目に留めないだろう。

いやそもそも,多くの人は,
利己的遺伝子説なんかには興味を持たず,
「ふ〜んそんなもんか」程度にしか思わないのかもしれない。

南原教授の「男が浮気するのは,遺伝子のせいなんだよ」というセリフも,
ただのプレイボーイのたわ言としてとらえるのかもしれない。

それならいいと思う。

その方が,いいと思う。

でも少なくとも,視聴者の一部は,あれを〈科学的真実〉ととらえてしまうだろう。
「男の浮気は,遺伝子によって操られているからしょうがないんだよ」
なんて言葉が,巷で普通に聞かれるようになるのかもしれない。

テレビの力というのは,暴力的である。

あ〜あ,ほんと,無念だ…。


もしこれを読んでいる方が,きちんとした知識を得たいと思われるならば,
どうか,リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んでいただきたいと思う。


利己的な遺伝子

なお,利己的遺伝子説を日本に紹介した本はいくつかあって,
竹内久美子さんの著作などが割と有名だが,
竹内さんの本にはかなりアヤシげな,ハミダシ気味の記述も多いので,
オススメできない。

代わりに,長谷川寿一・長谷川真理子夫妻(ともに進化心理学の研究者)の書いた
『進化と人間行動』(東京大学出版会)をオススメしておく。


進化と人間行動

大学の講義用に書かれた本だが,比較的読みやすいと思う。

ちなみに東大の教養学部でも,長谷川夫妻の講義はかなりの人気講義である。


以上,このブログには珍しく,ちょっと批判的?な記事を書いてみました。


【追記】
竹内結子「不機嫌なジーン」ブログ『不機嫌なジーン』第1話OA終了という記事にトラックバックさせていただきます。


【追記2】
この記事は,非常に不完全な記事である。
なぜなら,〈「不機嫌なジーン」の中の,どこの説明/セリフが,どう間違っていたのか〉
について,何も論じていないからである。

そのことについては,またいずれ書いてみたいと思うが,
あまりうまく伝えられる自信がない。

とりあえず,「利己的」というのは〈比喩〉であって,
決して〈遺伝子自身が意志を持って我々を操っている〉とか,
そういうことではない,ということだけ,記しておく。

ほんとは,利己的遺伝子説は,
「浮気はしょうがない」なんて,そんな表面的なことではなく,
もっと人間の・生命の本質に迫るような理解を得られ,
深い感動をもたらすものであるとぼくは考えている。


【追記3】
トラックバックを送ってくださった中に,
ぼくと似た感想を持っておられる方がいらっしゃった。

動物行動学(オランウータン)の研究しておられる,noukoさん。

動物行動学の知識を中途半端な添え物に使うくらいなら、行動学者でなくてもいいじゃん。
(中略)
現実の方がよっぽど魅力的な女性もいるし、エピソードだっておもしろいのあるのになぁ。
中身だけじゃなくて、外見もモデル並の長身でスタイルいい若手女性研究者とかもいるしね。

Orangutan webblog:「動物行動学者とドラマ」より引用)

動物行動学と研究生活については…あんまりコメントする気おきないなぁ。
仮にも動物行鯵惻圓???良盖い慮世ぬ?僕?陛?篥岨匯?曾个后
そもそもこんな安易な遺伝子還元論の形で利己的遺伝子を持ち出した時点で、行動学者的にはアウトだと思うけど。

同,「不機嫌なジーン」より引用)


しかし本物の動物行動学者の方のブログに出会えるとは,
それだけでもこの記事を書いた価値は十分にあった(^^)♪

noukoさんの研究についてのサイトもおもしろい。

オランウータンの部屋 Room of Orangutan


【追記4】(05.1.20)
noukoさんが専門家の視点から,オススメの本/オススメでない本/オススメのブログ,を
記事にしておられたので,追記しておく。

Orangutan webblog:動物行動学入門


【追記5】(05.1.22)
リンクをたどってフラリと訪れた先で,生物系の大学4年生の方が書かれた,
「不機嫌なジーン」についての批評記事を発見。

まるで日記のように:不機嫌なジーン

なにはともあれ、『不機嫌なジーン』が、これ以上、動物行動学や利己的遺伝子の曲解をまねかないよう、祈るばかりです。

キチンと生物学を学んだ人ならば,やはり同じような感想を持つらしい。
やっぱり,あのドラマはちょっとね。まぁ,ドラマだけどさ…


【追記6】(05.2.4)
コツコツ,追記を続ける。
上記「まるで日記のように」さんの記事のリンクからたどって,
九州大学の矢原徹一さんという方のブログ「空飛ぶ教授のエコロジー日記」をウォッチしていたのだが,
2月2日の日記「羽田→福岡のJAL機内にて」の中で,こう書いておられた。

「不機嫌なジーン」では、
「オスは自分の遺伝子を残すためにできるだけ多くのメスと交尾しようとする」という
「生物学の定説」が登場する。
(中略)
今日は上記の「定説」が必ずしも正しくないことを、書いておこう。
(中略)
オス・メスのどちらが選ぶ側にまわるかは、
どちらが子育てをするかに関係していることがわかるだろう。
オスが子育てをする動物では、「定説」はあてはまらない。


この矢原徹一さんというのは,
ぼくの進む学科にいる鷲谷いづみさんと共著で『保全生態学入門ー遺伝子から景観まで』を書かれた人でした。

鷲谷いづみさんは,今学期,講義を受けた。
いまのところ鷲谷さんの研究室が,ぼくの第一志望である。
彼女の書いた『サクラソウの目』という本を読んだが,おもしろかった。
これはまた改めて記事としてレビューを書こうと思っている。


サクラソウの目ー保全生態学とは何か
Posted by gandhi at 22:33│Comments(6)TrackBack(4)記事編集そのほか雑記

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まず、公式サイトの「おさらいクイズ」を答えてみましょう 第1話にしてはそつない登場人物紹介だったかな、ヘンに説明台詞も多くなかったし。 前クールのトレンディー系王道ドラマよりこういうラブコメっぽい方が見易いよね。 夏にはDVDが出るので予約しよ…ってか.
『不機嫌なジーン』第1話OA終了【竹内結子「不機嫌なジーン」ブログ】at 2005年01月17日 23:59
今回の月9は竹内結子でCX、勝負に出てきましたね。 タイトルから察せられるように、遺伝子がモチーフになっているので、 どんなドラマに仕上がりを見せるのか注目ですね。 竹内久美子さん的な俗流進化論の世界になってしまうのか、それとも・・・。 ラブコメなので、動物
不機嫌なジーン【微熱日記】at 2005年01月18日 01:10
はぁ 一応見てみました、動物行動学研究室(ドラマの中では「動物生態学研究室」になってたけど)が舞台の月9。 なんというか「なにそれ??」な世界… まさか、一般の理系研究者のイメージってあれ? あのミョーなハイソな世界… 月9にリアリティを求める人はいないと
不機嫌なジーン【Orangutan webblog@WebryBlog】at 2005年01月18日 01:58
今夜21:00〜スタート 『不機嫌なジーン』 動物行動学を学ぶ大学院生の女性が、 恋に研究に四苦八苦する日々を描く。 大森美香脚本、沢田鎌作ほか演出。   竹内結子さん 『ランチの女王』あたりから 好きですね。明るい役が似合います。 今回で月9の女王にな
不機嫌なジーン【maruのブログ】at 2005年01月18日 15:31
この記事へのコメント
TBありがとうございます。
Posted by ゆう at 2005年01月17日 23:50
はじめまして。
私も、所詮はラブコメなので・・・と思いながらも、動物行動学的な
俗説(珍説?)が氾濫してしまう懼れは感じています。
確かに竹内久美子さんの著作は売れていますからねぇ。
キャッチーなものほど一般読者が手に取り易い、と言うことも
あるのでしょうが、読者を惑わす可能性大と思っています。
ドーキンスもある意味においてキャッチーですが、科学的意味に
おいて説得的ですので、やはり製作者にはきちんと『利己的な遺伝子』を
読んで頂きたい、と思ってしまいます。

T.D.
Posted by tropical_dandy at 2005年01月18日 01:09
>ゆうさん

正直申しますと,売名目的のトラックバックだったのですが,
受け入れていただけてよかったです。ありがとうございました。

>T.D.さん

脚本を書いておられる方は,やはり『利己的な遺伝子』は読まれていないのですかね。
南原教授にしゃべらせているセリフなどを聞いていると,やはり読んでないかな…と思えてしまいます。
またたとえ読んで正しく理解していたとしても,ドラマの中で正しく知識を伝えるのは難しいでしょうね。
Posted by ガンジー at 2005年01月18日 14:11
このドラマ,近所で撮影してたので,ドラマには全く興味のない私でも
少しは知ってました。

でもやっぱり見ていないので内容はさっぱり分かってません。(^^;
ちなみに私の周りでは“ありえない!”が飛び交ってました。
魅力的な院生なんてほど遠いのね(^^;)

今日なんて珍しくスカートはいて行ったのですが,
それだけで“どうしたんですか?”って聞かれちゃったくらい。
華やかさゼロ の今日この頃です。


…脱力するようなコメントでごめんなさいね。


Posted by みっくす at 2005年01月18日 23:49
>みっくすさん

いえいえ,別に脱力なんてしません。コメントありがとうございます(^^)。

>今日なんて珍しくスカートはいて行ったのですが,
>それだけで“どうしたんですか?”って聞かれちゃったくらい。
>華やかさゼロ の今日この頃です。

おやおや…(^^;)。

noukoさんも書いておられたんだけど,
確かに修士であのドレスはありえないと思いました(^^;)。
(まぁ,ドラマだけどね)

って,そうか,見てないんだったか(^^;)。
Posted by ガンジー at 2005年01月19日 07:56
>今日なんて珍しくスカートはいて行ったのですが,
>それだけで“どうしたんですか?”って聞かれちゃったくらい。
>華やかさゼロ の今日この頃です。

 ごめんなさい。笑ってしまいました(^^;)。
Posted by 航海士 at 2005年02月05日 03:41