2004年06月16日

COEテーマ講義「心とことば」(8)大堀壽夫さん

COEテーマ講義(8)大堀壽夫さん
■COEテーマ講義「心とことば」(8)大堀壽夫さん

月曜日はCOEテーマ講義の第8回,
東京大学 総合文化研究科 言語情報科学専攻の,大堀壽夫(としお)さんのお話でした。
「世界の言語に普遍文法/普遍概念はあるか?」というテーマで講義していただきました。
さすが言語学者らしく?とても論理的な話し方で,内容もなかなかおもしろかったです。
以下,内容報告です。

●普遍概念の候補1「空間概念」

・上下,内外,左右,などの概念は普遍的か?
 →「左右」の概念を持たない言語もある。
  そういう言語では,「東西南北」などの絶対的な概念を使って表す。

・ON/INの概念
 →言語によって概念の範囲が異なる。
  たとえばアメリカの「帽子をかぶる」「おもちゃを箱に入れる」は共に「put in」だが,
  韓国語では「帽子をかぶる」は「〜(忘れた^^;)」。「箱に入れる」は「ー」。

∴〈普遍的な空間概念が存在し,それが全ての言語で均一な表現となる〉というわけではない。
候補1,棄却。


●普遍概念の候補2「主語と動作主」

・能格性(ergativity):対格型言語と能格型言語

対格型言語(例:英語):The man speared the kangaroo and (??) returned.
 →(??)は「the man」(=他動詞の動作主)

能格型言語(例:Dyirbal語):その 男 その カンガルー 槍で射た,(??) 戻った。
 →(??)は「カンガルー」(=他動詞の被動者)

これは我々の感覚からするとおかしいが,能格型言語はアフリカなどではごく普通に見られる。

∴〈普遍的な「主語」が存在し,それが全ての言語で均一な表現となる〉わけではない。
候補2も棄却。


●The mapping problm(写像問題)

「言葉は心の鏡」である。しかしその「映し方」は唯一絶対ではない。
「映し方」には様々ある。

(これはたとえば色彩に関してもそうである。
虹はある人間には7色に見え,別の人には6色に見える)


●普遍概念の候補3「論理接続語」

「and」や「or」は普遍概念か?ヒトの言語に一様な形で写像されるか?
→必ずしもそうではない。

・名詞句の連結
 and型言語:John and Bill went to school. 「John went to school with Bill.」はダメ。
 with言語:ジョンが学校へビルと行った。(John went to school with Bill.)

・動詞句の連結
 and型言語:John drank beer "and" Bill drank sake.
 ing型言語:ジョンはビールを飲ん“で”,ビルは日本酒を飲んだ。

∴〈論理接続が全ての言語で均一な表現となる〉わけではない。
候補3も棄却。


●結論と提案(丸写し。よくわからないところもある^^;)

(1)普遍文法/普遍概念は存在するかもしれない。
   しかし,従来のアプローチでは不十分だ。

(2)多様な言語データをもとに,ボトムアップで「写像の問題」に取り組むことが必要だ。
  そこでの一般的な法則性の発見が,ヒトの「認識のマップ」への手がかりとなるだろう。

さらに,
(3)このようなアプローチは,
「言語を含む認知発達が,先天的・生得的な要因と,後天的・学習的な要因の相互作用によって成り立つ」
という考えと親和性が高い。


つまり,
(4)生まれつき赤ちゃんが脳内に持っている「普遍文法」に,
限定的な「スイッチの設定」をしてやるだけで,個別の文法が出来上がる,
というシナリオにはムリがありそうだ。

(5)ヒトの本質を考えるには,言語文化を不可欠の環境(eco-system)と考えて,
その中での認知図式の発達を理解することが重要だ。


う〜ん書き写してみても最後の方は意味がよくわかりません(^^;)。
所詮1時間ちょっとの講義,全てを理解するのは,そりゃまぁ無理があるでしょう,
という言葉でお茶を濁して,このへんで。
途中はおもしろかったんだけどなぁ…(^^;)。


【参考ホームページ】

東京大学大学院 総合文化研究科 言語情報科学専攻


東京大学研究者データベース:大堀 壽夫



【他の回の記事はこちらから↓】
http://blog.livedoor.jp/gandhi/archives/cat_48505.html

この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
今晩は。
とんだ偶然ですが、このブログを発見しました。熱心に話を聞いて下さり、感謝しております。また、このような形で学んだ成果をまとめるというのは、面白い試みだと思います(写真がのるとは思っていませんでしたが)。

上記のHP(「研究者データベース」)は、情報量の少ない画一化されたものなので、専攻の方にもっている私が管理しているHPをご紹介しておきます。ここには、これまで私が担当した言語学関係の授業における学生とのやりとりが再録されています。自著の紹介(学習ガイド)なども少々あります。

他の先生の講義を聞いた限りでは、「言語学はつまらない」という感想のようですが、実は「認知言語学」という分野が最近になって出てきており、これは長谷川先生や開先生の講義と連動するような形で、幼児の発達や霊長類の認知研究の成果を取り入れつつ、言語の本質を考え直していこうとする分野です。言語を他の認知メカニズムから独立した機構としてでなく、生物学的な基盤をもった能力としてとらえる方向が、やっと支持を広げているところです。この方面の注目すべき本である、マイケル・トマセロという人の本(原題はThe Cultural Origins of Human Cognition)の翻訳が、今年の末か来年初めに出ますので、ごらんになるとよいかと思います。一部を私が翻訳しています。

正直、私も現在マジョリティの言語学はつまらないと思っているのですよ。ただ、新しいパラダイムが出始めていること、そしてそれは進化論や認知研究と親和性の高いものであることは記憶しておくと、何かの役に立つかもしれません。

連続講義も全部終わったので、特定の学生の利益・不利益にはならないと思い、参考までに書き込みをしました。べつに慌てたりせず、軽い気持ちで読み流して下さいね。
Posted by T.O. at 2004年07月15日 00:50
うわ,見つかったぁ(^^;)

…じゃなくて(^^;),御覧いただき,また詳細なアドバイス,どうもありがとうございます。

>「言語学はつまらない」という感想のようですが、(中略)新しいパラダイムが出始めていること、そしてそれは進化論や認知研究と親和性の高いものであることは記憶しておくと、何かの役に立つかもしれません。

そうなんですか。それはとても興味があります!
オススメの本も,刊行されたら,ぜひ読んでみたいです。
本当にどうも,ありがとうございました(^^)!
Posted by ガンジー at 2004年07月15日 15:02